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洋書感想「American Dirt」アメリカンダート

あらすじ

 メキシコのアカプルコで本屋を営んでいるLydiaは、姪の誕生日パーティー中にカルテルの襲撃に遭い、大切な家族(母、夫、親戚)16人を失った。唯一生き残った息子のLucaと共に、住み慣れた故郷を離れ生きるためアメリカを目指す。

 

感想

 この本は2020年初めから、本屋の店頭やウェブサイトで大々的に売り出されており、表紙が綺麗だったことから印象に残っている本だった。でも、新作だからまだ高いし購入する予定はなかった。だけれども、偶然立ち寄った地元の小さな本屋でサイン入りの本が売られており、気が付けば買っていた。コロナの影響で多くの店が閉店していく中(3月中旬)、少しでも地元の本屋を応援したかった気持ちもあった。

 

 ただ1/5程度読み終えた後、何気なくAmazonでこの本について調べたとき、予想以上に低評価のレビューが多く、賛否両論がかなりあることをブログやニュースから知った。その時点で読む気が少し失せたけど、なぜここまで批評されているか興味をもったため頑張って読みきった。本の内容としては、情景も細やかでスリルがあり全体的には面白かったと感じた。しかし、小説の展開で

  • レイプや暴力などの過激なシーンや主人公(Lydia)の回想(メキシコで幸せに暮らしていた時)が多い。
  • Lydiaの子供である8歳のLucaが本好きだからといって、英語も喋れて地理が詳しいのは年齢に対して頭良すぎ。と感じていた。

 

 しかしながら、この本を読み終わった後Reviewを調べるにつれ、本に対しての印象が変わってしまった。まずこの著者はアメリカ白人でメキシコにルーツもない。フィクションなことを考慮しても、現実のメキシコや移民に対して異なる部分が多いと指摘が多くみられた。また疑問点が多いにも関わらず、有名作家が帯に絶賛コメントを書き出版社の力で売り出されている。批判されているポイントは、最後にリストにまとめてみたが、そのいくつかの批判レビューを読み続ける内に、本に対して感じた違和感の理由がわかってきた。フィクションだとしても、実際にアメリカを目指す移民とかけ離れてすぎているのではないかと感じた。

 

 まず、過激なシーンや主人公の回想は、読者に憐憫の気持ちを強く植え付けたかったのかと感じた。主人公は、飢えや暴力がすぐ隣にある貧困層アメリカンドリームを目指して移民になるのではなく、大学卒で店を経営している中流階級のメキシコ人が、カルテルから逃れるために移民にならざるを得なかった。おそらく読者(本を好んで読む人達)は、自分の安定した生活がやむ終えぬ状況で奪われてしまったらと、同情しやすくなるように誘導しているように感じた。確かに小説は現状ではめったに起こらない悲劇的な事故や無秩序な暴力を入れて、読者をハラハラドキドキさせることは必要だと思う。しかし、この本はその表現方法が雑で意図的に感情を操作しようとしているように感じた。また、息子の英語がそれなりに理解できる設定も、実際の移民はまず言語の壁にぶつかるだろう。また、英語が喋れてもこの年齢の子供が、旅において地理の知識で母親を助け危機的状況を乗り越えることができるだろうか?

 

 私は日本で生まれ育ち、中南米へ行ったこともなく、恥ずかしながら知識もほぼない。だから、この本に書いてあるスペイン語やメキシコのカルテルの影響の大きさや移民問題が事実かどうか判断できなかった。私のように初めてメキシコについて知る読者は、小説に書かれたことが現実に起こっているものだと信じてしまうかもしれない。今回のように批評レビューを読まなければ、私の感想も多くの著名作家も推薦しているだけに面白い話だった。文中にでてくるスペイン語は新鮮だったな。メキシコはカルテルの意思一つで人を殺すことができるのか。怖い世界だな。とそれだけで終わっていたかもしれない。

 

 ビザを持たない移民問題は、現在アメリカで大きな問題となっている。だから、フィクションだとしても、白人のアメリカ人が違和感のあるスペイン語で現状とはかけ離れている話を書いた。またその本は出版社の大きな力で、過剰評価され売り出されている。実際に批評家たちは、世にはもっと移民について書かれた素晴らしい本があるので、この本は読む必要ない。とコメントしている。

 

 だからサイン本残っていたのかなと…。ただ小説として楽しめなかったが、なぜこの本が本屋で売り出されているのにそこまで非難されているのかと背景を勉強できたのはよい経験だった。

 

 以下は、この本について批評されているポイントに私なりにまとめた。もし、ご指摘等があればコメントください。

 

  •  著者がメキシコ人でもなく、メキシカンアメリカンではない。

 著者のあとがきで、この小説を書くにあたって数年に及んで移民について調査、取材は行った、また祖母がプエルトリコスペイン語が主流)からの移民、また旦那が違法移民だった(現在は結婚によりグリーンカード取得)と書いてある。それでも、著者自身は白人、アメリカ国籍、メキシコにルーツはない。

 多くの中米出身やルーツをもつ批評家達が、文中のスペイン語は古臭く奇妙だと指摘している。Youtubeの動画(The American Dirt Controversy)で、もしメキシコ在住のスペイン語母国者が出版前にドラフトを見ていれば、このような変なスペイン語が出版されることはなかったのではないか。

  • 小説の中にでてくるメキシコのカルテルの情報が古い。

 現代(2020年)にしては、カルテルと警察の癒着や日常的に書かれている暴力に関しての記述が古い。

  • 豪華な帯コメントと過剰なPR。

 他にも中米からの移民について書かれた素晴らしい本が多く出版されてるいが、多くの著者は低賃金で本が店頭に並ぶ機会は低い。それなのに、なぜこの本が、ここまで売り出さているのか?出版業界の闇を感じる。

  • 出版記念パーティーでの飾り付けが不適切。

 出版記念パーティーでの飾りつけで、鉄格子に紫の花でデコレショーンされたアメリカとメキシコのボーダーを表現したオブジェクトが展示された。この国境を模した展示物が、華やかすぎて不適切すぎる。(小説の中でも、このボーダーを超えるために過酷な旅をしなければならなく、何人かはボーダー越えが成功しなかった。)

 


What's so controversial about 'American Dirt'? | The Stream

 

あとリンクが張れなかったもう一つのYoutube

The 'American Dirt' Controversy

https://www.youtube.com/watch?v=-f3Ina9i7Gg

 

評価 3/10

単語 130000 words