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洋書とたまに和書の感想ブログです。洋書読みお友達がほしいです。

「The Testaments」 誓願

あらすじ

 3人の証言者を通して、ギレアデ共和国の内部が語られていく。あのある侍女の物語から数年後、カルト国家ギレアデはどう変貌したのか?女性の最高権力者として像が建てられるほど崇められているリディア小母、ギレアデの貴族階級で育ったアグネス、カナダの古着屋を両親に持つデイジーの異なる人生を送ってきた3人の運命が次第に交差していく。

 

感想

 私の中で「侍女の物語」はあの生ぬるい気持ち悪さが忘れられずにいた本だった。続編がでたことは知っていたが、あのボリュームを英語で読むには…と躊躇していた本だった。しかし、久しぶりに都会の大きな本屋でゆっくり本を選び終わり、いざレジに並ぼうとしたときにあの特徴的な表紙が目に入った途端、これは今読むべきなのかなと直感が働き、気がつけば一緒に購入していた。ちなみに日本語で今回は読みました。

 

 まずこの本を読み進めていくうちに、今シスターフッドが非常に多く濃く書かれていること、また特権階級に支配された世界から「風と共に去りぬ」が頭の中をかすめていた。実際に、リディア小母のTomorrow is another dayのセリフや、書評からも作者の名前が二人ともマーガレットなのに触れ、この2冊の本の相似性を挙げていた。

 

 私は「風と共にさりぬ」が大好きで、続編は読みたくない派の人間だ(今のところは)。決してHappy ever afterではなく、読者に委ねたあの終わり方が好きなのだ。今のご時世、人種差別により繁栄した南部の貴族社会に全て賛同することはできないが、自らの豊かな生活が崩壊、再建されつつある混乱の時代に多くの人を背負わねばならかったスカーレットの強さとしたたかさ、彼女の真逆に存在するメアリーの弱さとしとやかさ、その彼女たちを愛すまたは嫌う周辺人物が混ざり合い、だれもが必死に生きたあの世界が私の心の中に占めている。

 

侍女の物語」もカルト国家ギレアデに支配された世界で女性が生きていく息苦しさが書かれ、作者からの救済はあるものの、はっきりした結末ではなく読者に委ねられる結末だった。また男性>女性が大前提であるが、女性の中でも妻、侍女、そしてマーサや小母など互いに疎ましく思いながら、自分たちの役割に心境はどうであれ従事し、先が見えない日常を必死に生きていかねばならなかった。

 一方で、続編「誓願」では、共通の敵や目的がはっきりしているので前回のような抜け出す道がないような苦しさはない。つい夢中で読み終わってしまった後も、一つの爽快感が得られ読者が望む展開だったのかもしれない。最後の解説からも確かにこの現代で前回のような結末には持っていけなかっただろうから、この2020年だからこそかけた続編だと思う。

 

 しかしその犠牲として、物語上で少し無理がある設定や状況があり、ご都合主義だった場面を多くあった。この本でも最後に、未来の学者たちから研究されたギレアデ共和国のシンポジウムが開催されているが、研究結果をもう少しぼかして読者に委ねることはできなかったのだろうかと思った。

 

 続編である「誓願」では、多視点であの不気味な国ギレアデについて書かれているため、国の内部だけではなく外国との外交関係について幅広く知れた点は良かったと思う。またあの気持ち悪い世界から抜け出せてよかったとも感じる。でもあの世界から抜け出さずこの結末を知りたくなかった自分もいるから、なんだかすごく複雑でこの感想を書いている間も何度も悩んだ。

 

 やっぱりあの世界観が私の心の中を占め続けるので、「風と共に去りぬ」が人に薦めたい私の心の中の一部、「侍女の物語」が人には薦めたくないが私の心の中の一部なのかなぁと何回も考え直してようやくでた結論な気がする。

 

 だからこの本も読めてよかったと認めながら、まだもう少し「侍女の物語」の世界をたまにぼんやり思い出せればいいかなぁと思う。(ずっと考えていたら、心が病む気がする)