洋書を積む

洋書とたまに和書の感想ブログです。洋書読みお友達がほしいです。

洋書感想「The Help」

あらすじ

“Separate but equal” 1962年、ミシシッピ州アラバマにある小さな町Jackson。子守と文章を書くことが得意なAibileen、口は悪いが料理の腕は一流のMinnyは黒人メイドコミュニティの中でも仲良しの二人組。陰で悪口を話しても雇い主の白人達には逆らわない。はずだった...。一方で、大学卒業後実家に戻りジャーナリストを目指すSketterは、地元の友達との考え方のずれを感じながら、今まで誰も触れようとしなかった話題を本にしたいと思案する

 

読んだきっかけ

引っ越しの2日前に古本屋で大量買いした内の一冊。目立つところで山積みになっていた=多くの人が買っていた作品と予測したこと、また表紙の書評で

”This could be one of the most important pieces of fiction since To Kill a Mockingbird…If you read only one book… let this be it” -NRP.org

の文章にも惹かれた。その時は大量に本を買っていたので、日本に到着してからは完全に忘れていたが、部屋の片づけをしていた時に発見し♯積読weekに選んだ。

 

感想

 主な登場人物は黒人メイドのAibileenとMinny, 白人のSkeeter3人で、章ごとにそれぞれの視点で語られる。1960年代、ディープサウス、公民権活動が始まりだした時代だが、ジャクソンではテレビや雑誌で扱われたデモ情報を他人ごとのように眺めるだけ(そのニュースですら、黒人がテレビを見ているところを白人が止めさせる場面がある)。同じ町に住んでいるが、白人と黒人には明確な境界線があり、住む場所も職も異なる貧富の差だけではなく、トイレや食器を分けること、正当防衛との名ばかりで黒人が不当に暴力を受ける事件が発生していた。しかし、黒人たちは、報復を恐れ声を上げることができなかった。

 

 一方で、白人かつ大学卒のSkeeterはジャーナリスト志望だが仕事を応募した出版社から経験不足を指摘され、とりあえず地元紙のお掃除コラム(ゴーストライター)の仕事に就く。その後、キャリアを積むために個人で本を書くことを計画し、選んだ題材の一つに白人の家で働く黒人たちの声をまとめ上げる案を考え出す。この時彼女はあくまでも黒人に対して侮辱や差別はしなかったが、(彼女の一番の理解者が黒人メイドだったし)、その目に見えない分断を理解していなかった。少し前に炎上したCakeの受賞作でホームレスの生活について珍獣扱いのように書いたコラムのように、黒人の社会的地位向上に貢献するよりも、ネタの一つとしてみていた。そのため、黒人のメイドAibileenに本の話を提案するとき、彼女の家の前(黒人しか住んでいない区域)に押し掛けた。白人が黒人の家に訪れる。近所の人は不審がり、最悪の場合圧倒的に不利な状況にあるAibileenは職場を失うリスクがあった。その場面は、Sketterが自分の都合しか考えず、弱き立場の声を簡単に拾い上げられると無責任の情熱を押し付け、読んでいるこちらが恥ずかしくなった。

 

 しかし、雇い主からの不平等な扱いや黒人が巻き込まれた事件を目の当たりにして、Sketterは白人が黒人に接する態度や行動に疑問をもちだす。また黒人メイドの二人も胸に植え付けられた小さな怒りの種が日々膨らんでいく。この現状を文字に残すため、共通の目標をもって互いに歩み寄りだす。この中盤あたりが個人的には一番、好きだった。

 

 全体を通して人事差別が主なテーマだが、20代すぎの女の友情、恋愛、家族愛、白人内での富と貧困などかなり盛りだくさんな内容をこの一冊に閉じ込めたと思う。各キャラクターが魅力的なので、読んでよかった。

 

 私にとって、2020年にアメリカでの人種差別の歴史について学べた年だったように感じる。それまでは、ただ白人とそれ以外の人種で過去にひどい扱いを受けていたこと、キング牧師の名前、トイレとバスが人種によってわけられていた写真は教科書で見たような気がする。それだけの知識だった。

 自分が住んでいる町でBLMのデモが開催される、ニューオリンズプランテーション跡地に訪れる、1910年を舞台にしたRed Dead Redemption2をプレイする(ゲームといえどかなり細かい時代設計が練りこまれているなど)、そしてこの本に出会った。

 言葉を交わし同じ社会に住んでいるもの同士なのにもかかわらず、Help(メイド)のため、家の価値を上げるためと屁理屈をこね、黒人専用のトイレを設置し使用を強要させられる。外を歩いていただけでも通報され、白人トイレを使用しただけでもリンチに遭う。この本がフィクションだとしても、教科書で習った遠い過去の世界から、現代にも続く人種差別の歴史を学べたと感じる。そのため、この本だけではなくこの時代について書かれた本を読みたいと思う。作中に繰り返しでてきた名作To Kill a Mockingbirdが一番面白そうかな(難しいだろうから日本語で読むかも…)